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ばらについて
―あれこれ思ったこと―
二十世紀の薔薇と言えば、剣弁高芯咲のハイブリッドティ−ローズでしょう。たいていの人が薔薇と言えば思い浮かべる高島屋のマークのあの形の花です。
でも、二十一世紀の今、私が育てているのはそういう花形の薔薇ではありません。
フランドル派の静物画で花瓶にいけてある、ぐるぐると渦を巻いているような花形の、また洋食器に書いてある優しい丸い花弁のうつむいて咲く薔薇、そういう薔薇を育てています。
薔薇という植物は、人の心に入り込む事で進化した植物であると思います。
古代からはまず香りで人類を魅了してきました。他の方法ではぬぐい去れない、不安や悲しみを癒す素晴らしい力が薔薇の香りにはあるのでした。人は薔薇なくては生きられず、薔薇を常にそばにおいて来ました。
そして二十世紀に入ると今度は視覚から入る部分、つまり色や形に、強烈なメッセージをもちはじめました。特に剣弁高芯の薔薇は、攻撃的なまでにスブリミナルなメッセージを全身に秘めています。男性のブリーダーが美しいと思う型が、じつは女性を模していたとしても何の不思議もありません。
専門家でなくとも、ちょっと気のつく人なら、ここには女性器が、こちらには男性器が、そしてこちらは紅潮した肌の色。めくれ上がった花弁は唇。などすらすら、簡単に読み取る事ができるでしょう。
形そのものがセクシャルな薔薇は、男性から女性に贈る花としてまたと無いものであったでしょう。HTの花束はそれを受け取る人をドッキリさせるのにとても効果があるのです。
様々は視覚情報情報があふれている今、現代人はそういう薔薇の、メッセージを秘めたかたちに、ちょっと倦んでいるのではないでしょうか。あらゆる場面でセクシャルなメッセージに曝されているので食傷ぎみになっているのです。
―せめて花を愛でる時くらいは心を落ち着かせたい―
今またオールドローズの素朴で力強い魅力がみなおされてきていますが、逆に言うと、HTが、庭に咲かせるのには刺激が大きすぎるものなのではなでしょうか。特に日本のようにあまり広いとは言えないスペースでは、どちらかといえば、子どもや少女を連想させるような薔薇の方が落ち着くように思えるのです。
ザ・フェアリーや山崎ハイブリッドと言われるミニ薔薇に人気があるのも、そのブリーダーが女性である事と無関係では無いでしょう。
またビジュアル系のHTは、ある一瞬は、それはそれは美しいのですが、その瞬間を過ぎると花弁がだらしなく開き、悲しくなるほどです。瞬間の美を生きる花なのでしょう。
舞台女優のイメージでしょうか。そういえば、HTには女優さんの名前の薔薇がたくさんありますね。
それにくらべると、オールドローズは蕾から散り際までが絵になるように思います。老いても素敵な女性、そんなイメージがあります。若さだけではない、母性ようなものを感じます。丸い花弁が卵を連想させる薔薇もあります。
小輪の薔薇には加えて少女のあどけなさを感じます。ぽんぽん咲きのものなど特に。
ミニでも剣弁高芯のものはバービーのイメージと重なります。とっても好きなんですが。
子供の頃、実家に小さな一鉢のばらがありました。 ピンクがかった赤のHTで、りんごのようなとてもいい香りがして、ちょっと首をかしげるようにして、ぽつり、ぽつりと咲くのでした。
なぜ、熱心な園芸家など誰も居なかった実家に,そのばらがあったのか定かではないのですが、母は、おばがくれたのかもしれないと言っていました。
当時、小学生だったわたしは、せいぜい四季咲きベゴニアを育てるのが精一杯でしたので、そのばらは肥料をもらえるでもなく、剪定をしてもらえるでもなく、わたしの記憶ではいつまでも小さいままでした。きっと、年2、3輪の花を咲かせるのがやっとだったでしょう。でもその貴重な花を切り花にして学校に持っていったりしたこともありました。
その後、引っ越しをしたりで、そのばらも気付いた時にはなくなっていました。
引っ越した先の一戸建ての庭には一期咲きのばらのアーチがありましたが、花に顔を近付けても何の香りもないのにがっかりした覚えがあります。それでもそのばらにたくさんの虫が来ていたのは印象に残っています。
それから十数年。自分の庭を持った時、まず頭に浮かんだのがばらでした。前年に父をなくし、父とはとても良い関係だっただけに、寂しく、うつろな気分からどうしても脱け出せずにいたのですが、香り高いばらを庭にうえればなんとかなる。そんな激しい思いが沸き上がって来たのです。1999年の夏のことでした。
香りの庭をつくろうと思い立ち、アロマのことをいろいろと調べはじめると、驚いたことに,ばらの香りには悲しみを癒す力があるということが判りました。人の本能というものは侮れないものです。完璧に鬱状態だった私は無意識にばらを求めたのでした。
実際に何種類ものばらを育てはじめて改めて感じたことは、いくら花が美しくても、やはり香りの無いばらはつまらないということです。近寄って花に近付いた時、香りがあってはじめてばらとなにかが通いあったような気がします。蕾、満開、散り際と香りが変化してゆくのも何か人の一生と重ね合わせてしまったりして、感慨深いものがあります
ばらの名前
”薔薇の名前”と言うタイトルの小説や映画がありましたね。
花屋さんに行くと, ただミニばらやばらとだけ書かれた札が刺さったポット苗を見ることがあります。でも,どんなにその花が可愛くても, 美しくても,
私はその苗は買わないでしょう。しっかりと名前が判るばらを育てたいのです。ばらの名前には, そのばらを育種した人の思いが見えかくれしているようで、そのばらをいっそう美しく見せてくれるように思います。
ミニバラ
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